がん患者さんでみられる“痩せ”は、悪液質(cachexia)と呼ばれ、全身性の炎症に伴う筋肉の減少を特徴とする病態です。進行がん患者さんの80%でみられる悪液質は、がん患者さんの死因の30%を占めますが、その発症機序の解明は十分には進んでいません。
私たちの研究グループは、がんの進行とともに通常ではみられない特殊な単球が出現しIL36Gというサイトカインを分泌して筋肉を減少させることを世界ではじめて同定し、この単球をCachexia-inducible Monocyte(CiM)と名づけました。重要なことに、CiMが分泌するIL36Gのはたらきを阻害すると、さまざまな種類の進行がんマウスで悪液質の発症が抑制されることがわかりました。今後、がんの進行にともなってCiMがどのようにして誘導されるのか?治療標的として有用か?を明らかにし、がん悪液質治療のブレイクスルーをめざします。
(Nature Communications 15(1): 7662, 2024)
がん細胞ひとつで、身体にがんはおこりません。がん組織のなかにもクローン間のきびしい生存競争があります(がんの不均一性)。がん組織のまわり(腫瘍微小環境)には、さまざまな免疫細胞が存在し、がん細胞を攻撃します。この反応が過剰になると、全身の組織や臓器にダメージをあたえることもあります(腫瘍随伴症状)。また、身体をまもるはずの免疫細胞は、時としてがん側に寝返り、がんの進行(浸潤・転移)を助けます。がん組織のクローン間相互作用、がん病態に関わる免疫異常の分子基盤を解き明かし、新たな治療標的を探ります。
(Cancer Discovery 8(11): 1438-1457, 2018、Cancer Science 110(5):1510-1517, 2019、Blood VTH 1(2):100014, 2024)
太古の昔、真核生物の祖先となるアーキア(古細菌)と共存する道を選んだ好気性細菌は、細胞のエネルギー産生に欠かせない細胞内小器官ミトコンドリアとなりました。今、老化や炎症、がん、様々な病態で、このミトコンドリアの形態異常が注目されています。がんにおけるミトコンドリア形態異常の意義を解き明かし、それを標的とする新規治療法の創出をめざします。
(Cancer Discovery 12(1): 250-269, 2022、Cancer Science 14(7):2722-2728, 2023)